社団法人日本演劇興行協会
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公益社団法人 日本演劇興行協会よりの提言

2002年2月 作成
2007年11月 改訂版作成

はじめに

私ども、日本演劇興行協会は、東京、大阪、名古屋、福岡の演劇を行う14劇場を有する事業者が中心となって加盟しております社団法人で、「演劇の健全な発展とわが国の文化向上に寄与する」ことを目的としております。

1970年の当協会設立以来(1988年より社団法人)、上記目的実現のため活動を継続してきましたが、2001年11月30日に、「文化芸術振興基本法」が国会で成立したこと(同年12月7日に発布)ことは、生身の人間が観客の面前で演ずる芸能の分野で長い歴史を持つ我々演劇興行者にとりまして、「国家に益なき芸能」との位置づけをされて苦難の歴史を経てきたことを思えば、実に意義深いことでした。この法律には、「文化芸術の役割」が、「心豊かな活力ある社会の形成にとって極めて重要な意義を持ち続ける」と明記されております。これを機に、私どもが日々行っております演劇興行も、社会の中で重要な意義をもつよう、高い志をもって行うべきとの決意を新たにし、今日に及んでいます。

この決意を後押ししていただく、社会の動きが、文化芸術振興基本法の後も続きました。2002年2月に小泉首相による「知的財産立国」の方針が宣言され、同年11月に「知的財産基本法」が成立しました。世界最古の知的財産産業である、演劇興行においても、よりよい作品(コンテンツ)を生み出すことが望まれ、ビジネスとしても発展が期待されることになりました。この動きの中で、2003年9月に、演劇興行界の念願の一つである、子役の就労可能時間が、午後8時から午後9時に延長されることが決定し、2005年1月より実施となりましたのは、たいへん意義深いことでした。経団連においても、ライブ・エンタテインメント・ビジネスの代表的企業20数社が集まって、2004年よりライヴ・エンタテインメント分科会を発足し、現状分析と今後のあり方について、議論を行い、その結果を毎年、提言としてまとめています。

しかしながら、演劇文化の振興につながる施策はいまだ十分ではありません。当協会では、各加盟劇場の意見をまとめた提言書を2002年2月に作成し、これをもとに文化庁への要望を行い、また、提言書を各加盟劇場に置き、当協会のホームページに掲載して、広く一般にも理解を求めてきました。文化芸術振興基本法には、「文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの権利」と記述され、国および地方自治体は、文化芸術の振興に関する施策を策定し、実施する責務があり、政府は、「文化芸術の振興に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない」とあります。この条文の具現化を願いつつ、私どもは、ここに改訂した提言書を発表する次第です。

提言の中には、長年、私ども興行を行う当事者が実現を望んできたものが多数含まれており、それらが実現のあかつきには、より良いものを、より多くの人に、より見やすい環境でお届けすることにつながり、「演劇の健全な発展とわが国の文化向上に寄与する」と確信するものです。

以下の提言に対する議論を重ねていくことが出来れば幸いに存じます。また、皆様のご理解、ご賛同をいただける点につきましては、その実現のため、関係の皆様のお力を賜りたくお願いを申し上げます。

2007年11月
社団法人 日本演劇興行協会

<なお、提言の中では、「文化芸術振興基本法」を「基本法」といいます>

1.教育および人材育成の充実

(1)小中高の授業の中に「演劇」の科目を

基本法第24条において、「国は、学校教育における文化芸術活動の充実を図るため、文化芸術に関する体験学習等文化芸術に関する教育の充実、芸術家等及び文化芸術活動を行う団体における文化芸術活動に対する協力への支援その他の必要な施策を講ずるものとする」とあり、基本法付帯決議の7に、「小中学校における芸術に関する教科の授業時数が削減されている事態にかんがみ、児童期の芸術教育の充実について配慮すること」とありますように、学校教育における文化芸術体験もしくは学習の重要性は、基本法の条文に十分に記載されております。私どもは、文化芸術の中でも、演劇のもつ以下のような特色は、今後の日本の教育の場で、より大きく活用されるべきではないかと考えています。

<1>演技することの効用

自分でない別の人を演じるということは、自分でない他人のありようを想像してみるということです。このことは、自分以外への視野をひろげ、他者への想像力、思いやりの力を育むことにつながるでしょう。

<2>戯曲を読むことの効用

演技をしなくても、戯曲を読み、場面の状況、登場する人物の人間像、台詞の意味を考えることで、人と人との関係の中で人間が存在していることを効果的に学ぶことができるでしょう。さらに、日本語能力、創作能力が、飛躍的に高まることが期待できます。

<3>集団創作することの効用

一本の演劇をつくり上げるには、大道具係、小道具係、衣装係、照明係、演出等のスタッフ、演技者等、、さまざまパートが必要で、自分の適性にあったパートを各自が見つけることが出来、違った能力や個性をもつ人が、皆で力を合わせることによって一つのことを成し遂げる経験は、多くの人たちとの和合により社会を作り上げてゆくよい訓練になります。
このような演劇の効用は、美術、音楽、書道など既に義務教育の中に取り入れられている科目にまさるとも劣らないものではないでしょうか。そこで、私どもは、学習指導要領の中で、美術、音楽と同じく演劇も考慮していただき、小中高の授業に情操教育の一環として「演劇」の時間を設けることを提案いたします。
また「演劇」の授業を行うためには、教師の育成も前提であり、また、必要なことです。基本法第17条に芸術家等の養成機関の整備をすすめるとある中に、「演劇」を具体的、総合的に教えることができる人材の育成への配慮を願うものです。教師育成課程に演劇関係授業を取り入れることが、まずその第一歩です。

(2)視聴覚教育としての校外観劇への財政補助

教室を離れ多くの他の観客と一緒に劇場に身を移すことによって、実演舞台の内容を体験的に学べる上に、舞台と観客が共同で作り上げる劇場ならではの感動体験をすることや、集団創作の成果を観ることによって、皆で力を合わせることの大切さを知り、人間形成に益することが大です。基本法第24条に支援すべきものとしてあげられている「文化芸術に関する体験学習」として、劇場での舞台鑑賞はうってつけのものでしょう。何より、演劇が、舞台の上だけで完結するものではなく、劇場、雰囲気、見知らぬ観客と同じ時間を過ごすことのトータルな体験であることを感じるためには、実際の劇場に行って、自ら体験してみなくては、決してどのようなものであるか掴めないものなのです。

とくに、歌舞伎とミュージカル、ストレートプレイの名作は、時代を経る中で淘汰されて残ってきたものとして、繰り返し上演されるにふさわしい深い内容を有しています。これらの作品の鑑賞を、背景知識の学習とあわせれば、総合的な教育効果が望めるばかりでなく、これらの文化を担い、継承、発展させていく将来の人材を生み出す、貴重な出会いの場となるかもしれません。毎年の「知的財産推進計画」においても、コンテンツ分野の人材育成が謳われていますが、若年時にすぐれたコンテンツに触れることの重要性はいくら強調してもしすぎることはないでしょう。新しいコンテンツは、過去より蓄積された優れた知的財産に触発されて生れてくるからです。A このような観点から、いくつもの劇場が、学校からの集団観劇については、通常の割引率を大きくこえても、なるべく多くの生徒さんに観劇してもらえるように努力しております。しかし、生徒の自己負担の場合は、生徒一律に課す必要から、それを行なえる学校は少なく、学校側の負担による場合は、視聴覚教育のための予算は、全体の予算の中で、非常に低い額になっている場合がほとんどです。従来、行政の側では、学校の校舎、施設などのハード面においては、大きな補助を行ってきておりますが、今後は、ぜひソフト面に関する補助も充実させてほしいと願うものです。

ー具体案の一例ですがー。
中高生の数は、約850万人ですので、年間一人あたり1000円の補助をするとしますと、約85億円になりますし、劇場のほとんどが、大都市に偏在していることを考慮すると、観劇奨励金制度のようなものがよいと考えます。(もっとも、85億円はわが国の年間総道路投資に比べられば1000分の1に充ちません。すなわち、1クラスの平均的人数である30人以上の集団観劇会もしくは、修学旅行中の観劇については、一人あたり、1000円(これは、劇場の最低価格席の金額の3分の1から、5分の1の金額です)を、学校へ奨励金として補助するものです。

(3)海外への研修派遣制度への助成

当協会では、主要な助成事業のひとつとして、会員劇場に働く社員を、毎年20人前後を、ロンドンもしくはニューヨークへ1週間ぐらい派遣し、歴史、規模、運営すべてにおいて異なる演劇のあり方を体験し、彼我の差を身をもって知ることで、日々行っている業務を別の視点で見直し、未来への一層の改善努力につながるような研修旅行を行っております。当協会のこのような制度はささやかなものでありますが、日本の演劇の世界全体を見渡しますと、このような研修制度の数の少なさに驚かされます。演劇の専門家、すなわち演出家、装置・衣装・音響・照明などのデザイナーを対象とするものとしては、文化庁やセゾン文化財団によるものぐらいしかないのが現状です。基本法16条では、芸術家の養成のために国内外における研修への支援が謳われております。既存の文化庁の海外研修制度の人数、助成額の増加をまず願います。

(4)演劇に関わる人材育成機関の充実

(1)でも記した演劇教育者の育成の拡充はもちろんのことですが、俳優、脚本家、演出家、音楽家、舞台美術家、プロデューサー、アートマネージャーなど、創造性を発揮する専門家を志す人を育てる機関が整備されなくてはなりません。そのためには、国立の演劇総合大学の早期設立が望まれますし、あわせて国公立の各大学に出来るだけ多くの演劇講座が開かれることを願います。また、各地方自治体の運営する劇場では、地元の才能を発掘し、育成する機能を兼ねることが期待されます。

2.子役の就労時間の延長

欧米と我が国の演劇には、大きな違いがありますが、その一つが、英米と日本とで法律が異なります、演劇における子供の出演の問題です。

演劇は現実社会の反映です。現実の人間社会、人間と人間との関わりの中では、必ず子供はその中に重要な意味を持って存在しています。それゆえ演劇で人間社会を表現するにあたって、舞台に子供が必要になることは必然です。必要なだけでなく、その上に、演劇において子供が人々を感動させることがしばしばです。具体的には、歌舞伎の多くの演目では子役はなくてはならないものですし、ミュージカルでは、「サウンド・オブ・ミュージック」「王様と私」「アニー」「オリバー!」「ミュージック・マン」「ビッグ」「モーツァルト!」等々多数あります。 英米では、そのような演劇も午後8時前後の開演時間で上演が行われ、多くの人が、優れた作品を鑑賞することを可能にしております。しかし、日本では、15歳までの子役については、労働基準法がほとんどの場合適用され、2005年1月に1時間延長されたとはいえ、午後9時以降、舞台に立つことが出来ません。すなわち、子役が労働者にあたると判断される場合、労働基準法が適用され、同法第56条1項によれば、「15歳までの児童を労働者として使用」してはならないとあります。ただし、同2項によれば、演劇の事業については、満15歳までの児童であっても、労働基準監督署の認可を受ければ使用でき、ただし同法61条5項によって、その時間は、午後8時までとなっており、さらに同項後段の特別措置で、午後9時までとなっております。

このため、子役の演技終了時間が午後9時以前になるように公演主催者としては開演時間を設定せざるをえず、3時間の演劇ですと、午後6時の開演になってしまいます。この開演時間では、一般の会社に勤務の方が、観劇をしようとしてもたいへん困難です。これは言いかえると、会社勤務の労働者は、舞台を見る機会が、法律が原因となって、奪われているということになりましょう。同じ年齢の子供が、法律や児童福祉において日本に劣らず研究の進んでいるアメリカやヨーロッパ各国において、大人と同様の時間に立派に舞台で活躍しているのに対して、日本だけ許されないことは、これだけ世界にグローバルな考え方が浸透している今日、再検討されるべきではないでしょうか。 労働基準法が出来てから、50年以上の歳月が流れております。日本の文化や労働環境も大きく変化しました。労働基準法が出来た戦争直後、年少者の不当な使役から年少者を守るためにこの法律は大きな意義を果たしましたが、日本の現状は大きく変わり、今日の演劇の子役の実態を考えると、本人自らが望んで、舞台の集団創作行為に参加しようとしている状況です。私どもは、演劇の子役については、労働基準法第61条5項の規定が緩和されることを長年、望んできました。2005年1月に午後9時まで就労可能になったことは評価しておりますが、これは経過的な措置と捉えており、すでに3年近い時間がたった今、経過措置により児童福祉への悪影響が生じていない成果もふまえ、一層の延長を願うものです。具体的には、週の労働時間の合計が一定時間内にとどまっており、就学に支障がない等の一定の条件を充たせば、午後10時まで、15歳未満でも舞台に立つことを可能にするというものです。これによって、子役を必要とする演劇作品の上演の機会が多くなることを助け、それを観劇する機会を多くの人に与えることになり、また、幼少のころから演技の才能を示す年少者が才能を発揮し、それを伸ばし、文化への子供たちの参加とその享受の促進を計るという点で、基本法の理念にかなうものと考えます。

現行の規制は、基本法の根本である、年少者の文化芸術を創造する権利や、誰もが文化芸術を享受する権利の実現に大きな障害となるものです。この点は、特に一刻も早い改正の実現を強く望むものです。

3.舞台公演製作者に対する著作権法上の権利確立

基本法第20条には「国は、文化芸術の振興の基盤をなす著作物の権利及びこれに隣接する権利について、これらに関する国際的動向を踏まえつつ、これらの保護及び利用を図るため、これらに関する調査研究及び普及啓発その他の必要な施策を講ずるものとする。」とあります。平成元年、私どもは文化庁長官に、「演劇製作者に対する著作権法上の権利付与に関する請願書」と題する書面を提出いたしました。そこでも述べました通り、演劇やダンス等の舞台公演(以下「公演」といいます)の製作者は、公演の企画と実現におけるまさに中心的な存在です。

すなわち、俳優が自らプロデュースするような例外的な場合を除けば、公演の企画を最初に立てるのは、劇場、プロダクション、興行会社、劇団、ダンスカンパニー、フリーのプロデューサー等の公演製作者です。製作者は、企画の基本アイディアに基づいて脚本等の「作品」を選定し、脚本家への執筆依頼をおこないます。脚本に原作がある場合には原作者との権利獲得の交渉が先行することもあります。次いで、あるいはこれと並行して、演出家、振付家、各種のデザイナー(舞台美術家)といったスタッフに参加を打診し、打ち合わせをおこないます。また、俳優、ダンサー、ミュージシャンといった出演者との出演交渉をおこないます。こうした作品、スタッフ、キャストの組み合わせに製作者は最大限の配慮を払います。いわゆる企画ディベロップメントといわれますもので、公演の芸術的、興行的成否を決定する最も創意工夫を求められる作業です。欧米の映画製作においても、作品、監督、主要キャストの「パッケージング」といわれる作業の重要性は折に触れて強調されるところですが、公演製作においてもその重要性は何ら変わりません。また、こうして企画の実現性を見極めつつ、最適の劇場を早い段階で押さえることも重要です。

脚本執筆の過程においても、製作者が演出家と共に重要な示唆や指針を与え、優れた脚本創造を助けることは大切な仕事の一つです。演出、振付プランや装置、衣装、照明美術のデザインについても同様です。また、多忙な出演者達との連絡やスケジュール調整をおこない、演出家や振付家の統括する稽古場が有機的な芸術創造の場となるよう仕事を行います。言うまでもないことですが、こうしたスタッフや出演者との契約主体は全て製作者です。すなわち、公演のクリエイティブ・チームは製作者を核にして結び付いていると言えるのです。この上製作者は、興行が成立するための公演の宣伝、チケットの販売活動等の営業活動をします。なぜなら興行が成立してはじめて次の製作活動、芸術創造活動が可能になるからです。製作者の存在を抜きにして、優れた舞台芸術は生み出され得ないと言っても過言ではありません。

しかしながら、このような公演製作者には現行著作権法上、一切の権利が認められていません。現行法は、舞台公演自体を著作物とは予定しておらず、公演は単なる個々の著作物の集合体に過ぎないことになっています。そして、個々の要素については劇作家、振付家、舞台美術家に著作権が、また俳優や演出者といった実演家には著作隣接権が、それぞれ認められているだけで、公演製作者には何らの法的な権利もあたえられていないのです。

もし、劇場での舞台公演を無断で録画する者がいた場合、それを第一に発見してとがめるのは当然に主催者たる公演製作者です。しかし、法律的にこうした録画行為を差し止めることができるのは、劇作家や俳優なのです。公演製作者には無断録画を差し止める法的な権利さえ、はっきりした形では認められていません。本年の映画盗撮防止法も、劇場関係者にはかることなく、舞台公演を対象に含めずに成立しました。強いて法的な根拠を挙げるならば、「劇場の所有権に基づく管理権」や「著作権者からの委任」といった迂遠で不十分な議論を展開するほかないのです。

しかし、本来、公演製作者は、その知的な創造と財政的な投資に対する当然の権利として、無断での公演の録音・録画や、放送・有線放送を禁止できて当然ではないでしょうか。それは、舞台芸術界やメディア界の実情や常識にも合致しています。なぜなら、現に放送事業者やビデオ製作会社は公演の放送や録画の許可が得たい場合、まず公演製作者に連絡をとり許諾を得ようとするはずだからです。

また、著作権法上、映画製作者には映画の著作物に対する著作権が認められ(同法第29条)、レコード製作者や放送事業者にはそれぞれ著作隣接権が認められています(同法第4章3節・4節)。このことと比較すると、公演製作者だけに権利が認められないのは著しくバランスを欠いていると、私達は考えます。

諸外国の例を見ても、西ドイツ著作権法では、こうした実情に鑑みて「実演の開催者」に「固定」や「放送」「場外伝達」の権利を認めています。すなわち、同法第81条では、「実演家の実演が企業によって催される場合」に、その実演の「場外伝達」「固定」及び「放送」には、実演家の同意ばかりでなくかかる企業の同意をも必要とする、と規定しており、公演主催者に録音権、録画権、放送権などを認めているのです。

すでに述べた公演製作者の芸術創造上の貢献や海外の実例に鑑みれば、我が国でも、公演製作者を著作権者と認めるか、少なくとも実演家と同様の録音・録画権や放送・有線放送・送信可能化権を認めることが、製作者の活動に対する正当な評価というべきです。私達は、公演製作者にこのような権利を認めることが、舞台芸術やメディア界の常識や慣行とも一致するばかりか、一般にその存在が評価されることも報われることも少ない製作者に正当な評価とインセンティブを与え、ひいては優れた舞台芸術を生み出すことにつながると信じます。(以上、福井健策編「ライブ・エンタテインメントの著作権」(著作権情報センター)IIー2章参照)

この問題は、この数年で、切実性を増しております。無断で録画された映像が、YouTube などの動画共有サイトに多く投稿されて、著作権侵害が起きており、憂慮すべき事態になっております。公演製作者が、無断の録画禁止を容易に行うことができ、また、動画共有サイトへの著作権侵害の申請を、著作権からの委任を受けて公演製作者が行う現状を、公演製作者自ら削除申請ができるようにすることは、著作権侵害へ迅速な対応ができるということで、著作権の尊重に寄与できるでしょう。

なお、「公演製作者」とは、著作権法上の「映画製作者」と同じく、公演製作に発意と責任を持ち、公演製作に関する収入・支出の主体となる、法人もしくは個人を言います。

4.税制優遇措置

(1)劇場の固定資産税免除

基本法第31条には、「文化芸術活動に行う者の活動を支援するための税制上の措置」を国は講ずるとあります。また、第25条には、国は、劇場の充実のために必要な施策を行うことが述べられています。いうまでもなく、演劇という文化芸術にとりまして、劇場の問題は大きな比重を占めております。当協会の加盟劇場は、14を数えますが、これまで民間の劇場として、独力で、その維持、運営に努めてまいりました。いずれの劇場も、各都市の中心部に位置しており、地価も高いところに位置しております。人口密集地の土地の能率利用という面だけを見れば、劇場は、大きな空間を必要とする割に、客席数には上限があり、1日のごく限られた時間しか使用しないとも言え、効率の悪い事業とも言えます。一方、その副次的効果を鑑みれば、劇場に集まる人の動きは、経済的効果ばかりでなく、その界隈のイメージ向上に大きく貢献していると言えるでしょう。このことは、国内外における最近の文化経済学分野での研究成果からも明らかです。しかし、このようなことは、現行の税制上では、まったく勘案されていません。公立劇場が増え、その運営にも公的な援助が行われている現状は、喜ぶべきことではありますが、私どものように自ら劇場を所持、運営しております側からみると、劇場から文化を発するということにおいて、同じ役割を担っているにも関わらず、この違いは、公平を欠いているという所見をもたざるを得ません。

なかでも、固定資産税は、土地、家屋、償却資産の適正時価に対して、100分の1.4を標準とし、100分の2.1を上限として、地方自治体より課税されています。よりよいソフトをより低い価格で提供することの競争において、固定資産税非課税団体である公立劇場を借りて公演を行う団体に対して、私どもの劇場は、この金額分だけハンデを背負っていることになるといえるのではないでしょうか。劇場および稽古場に関する部分についての固定資産税免除を強く求める次第です。

(2)民間の演劇文化支援の促進措置

基本法第31条には、「国は、個人又は民間の団体が文化芸術活動に対して行う支援活動の活性化を図るとともに、文化芸術活動を行う者の活動を支援するため、文化芸術団体が個人又は民間の団体からの寄附を受けることを容易にする等の税制上の措置その他の必要な施策を講ずるように努めなければならない」とあります。現在、芸術文化団体のうち、「特定公益増進法人」と認定された財団・社団法人、一定の特定非営利活動法人(いわゆる認定NPO法人)に対して、法人や個人が寄附すると、寄附金が一定の範囲で損金算入が認められておりますが、損金算入枠を拡大することや、寄附対象の団体の拡大などについて、すでに幅広い議論が行われております。とくに、現在きびしい条件を課せられます特定公益増進法人の認可基準を、緩和していくことが必要と考えます。

私どもといたしましては、民間企業が、演劇を行う者の活動を支援するために、資金を出しやすくなるような制度整備を望んでおります。具体的には、演劇の製作資金として、民間企業が、製作者に寄附を行う場合は、その企業が損金算入できるようにしていただきたいと考えます。

また、これまでも民間企業が団体という形で、演劇の入場券を購入してきてくださったことは、私どもにとって、大変重要なことですが、近年の日本経済の苦境により、企業が購入する入場券の総額は低下の一途をたどっており、各劇場の運営を圧迫しております。企業が行う観劇会には、大別して、顧客を劇場に招待する場合と、福利厚生の一環としての、従業員慰安会とがあります。いずれの場合も、費用とされるか交際費とされるかは、租税特別措置法およびその通達によって、個々に判断されるわけですが、前者の場合だと、不特定多数の一般消費者を対象とした場合は広告宣伝費、取引先の場合は交際費、後者の場合、従業員全員の場合は福利厚生費、一部が対象の場合は交際費と、原則上はされております。これを、演劇文化振興の面から、顧客及び従業員の舞台公演鑑賞招待については、特段の不適切な事情が存在する場合を除いて、原則として費用計上できるようしていただきたいと願うものです。

5.古典芸能への優遇・助成

基本法第10条では、文楽、歌舞伎他のわが国古来の伝統的な芸能を伝統芸能というとしたあとで、「継承及び発展を図るため、伝統芸能の公演等への支援その他の必要な施策を講ずるものとする」とあります。伝統芸能は重要な文化であるとともに、我が国の大きな観光資源であり、国際的な理解と交流に重要な役割を果たすものです。その具体策として、以下を提案いたします。

<1>伝統芸能の興行において、観劇券購入者が支払う消費税を免税。

消費税導入以前の入場税の時代には、歌舞伎に対しては、古典芸能育成のため非課税となっていました。

<2>企業が、伝統芸能の観劇券購入の時には、交際費課税を一律撤廃。

前項4.(2)の記述に含まれますが、ここでは、古典芸能振興の面からの提案です。

<3>小、中、高、大学生の古典芸能鑑賞に対する助成、補助。

<4>伝統芸能の海外公演への助成.

<5>劇場内での外国人向けイヤホンサービス事業への助成。

また、基本法第16条にもある通り、伝統芸能の伝承者の養成、確保のため必要な施策を講ずることが掲げられています。国立劇場養成課の行っている「伝統芸能伝承者養成」の講座のさらなる充実はもちろんのこと、他の養成機関の充実が望まれます。

6.高齢者、障害者への配慮、託児サービスの充実

(1)バリアフリーへの助成

基本法第22条には、高齢者、障害者等の文化芸術活動の充実が述べられ、その活動が「活発に行われるような環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする」とあります。劇場では、車椅子での観劇がしやすいような施設改善(リフトの設置やトイレの改装)などに、これまでも努力してまいりましたが、まだ十分に整っている状況といえません。この点での充実を促進させるため、バリアフリー化への改築に関し、公的助成をしていただくようお願いいたします。

(2)高齢者の観劇機会の促進

基本法第21条にあります国民の文化芸術の鑑賞機会の充実の一環といたしまして、高齢者に対する配慮を特に主張したいと考えます。社会の一線を退いてからの年配者の長い余生において、人生への共感や希望を持つために、演劇が有意義な役割をはたすはずで、その機会を増加する施策をすすめていけたら、大変有意義だと存じます。具体的には、高齢者のために、定期的に指定劇場での観劇券購入費用にあてられる観劇クーポンを発行、配布したり、地方自治体による高齢者招待観劇会などが考えられます。

(3)観劇時託児サービスの充実

現在、劇場の観客のうちで、大きな割合を占めていますのは、可処分所得の多い20代台から30代の女性です。しかし、残念ながら、出産して子供を持ちますと、劇場から足が遠のいてしまうケースがほとんどです。その理由の一つは、欧米のように子供をベビー・シッターに預ける環境が出来ていないことによります。私どもは、小さい子を持つ母親の観劇のため、特別な観劇室を設けたり、民間の託児サービス会社と提携して、観劇中の託児サービスについて、努力をしてまいりました。しかし、後者の場合、観劇料の他に、託児料の金額が負担となるため、利用者数が大きな数になっておりません。そこで、「国民の鑑賞機会」の充実につながることでありますから、託児料について、助成制度の設立を望む次第です。

7.劇場(ハード面)の充実

基本法第25条には、劇場、音楽堂等の充実が述べられていますが、それに関連し、以下のような要望をいたします。

(1)低料金で利用できる公立稽古場の建設

演劇の製作において、稽古の重要性は、申すまでもありませんが、現在、当協会の各劇場とも稽古場の問題では、十分な環境のもとで稽古を行なえる場合は、稀になっております。各劇場ともに、大変地価の高いところにあるため、稽古場として適当な場所がなかなかないのが現状です。そもそも稽古場は、営利、非営利、プロ、アマテュアを問わず、必要である一方、自らの組織で所持すると、稽古場の必要な時期が常時でなく、不定期なため、コストが相対的に高くなってしまうという性質のものです。このような施設をこそ、公的なものをつくっていただければ、演劇文化全体の発展に、大きな助けとなります。

(2)非常灯・誘導灯の消灯、本火使用の認可基準の緩和

現在、劇場の施設のみを対象とする法律はなく、消防法や、自治体の条例によって、さまざま規制がされております。しかし、いずれも、規制制定後の、各種の技術革新によって、設立当時ほどの規制を必要としなくなっていると考えられる面も多々あります。

舞台上での本火(裸火)使用の問題では、現行条例のもとでも、各劇場の努力と消防署のご理解によって、ある程度の範囲で、認められておりますが、その認められる範囲は大変きびしく、認められる可能性の少ない本火使用の演出は、届け出を試みる以前に、最初から諦めてしまっている現状もございます。その結果、ロンドン、ニューヨークで行われている演劇と比べると、舞台での表現の選択肢が最初から制限を受けた状態になっています。

非常灯(避難口誘導灯)・客席誘導灯の消灯の問題では、演劇というものが、光と闇の効果を大いに利用して表現を行なうものですから、劇場空間を闇に出来ないことは、多くの劇的効果の減少につながります。また、大変効果的であることが多い、舞台上で鏡を使う演出がありますが、それを使用するとき、鏡に客席の非常灯が映り込むために、演出プランの変更を余儀なくされることがあります。
このように、これらの問題は、演劇の芸術的水準を高めるために、大変重要な問題ですので、認可基準の緩和をお願いする次第です。

(3)歴史的建造物である劇場建築に対する、保守・維持費の助成

演劇は総合的な体験であり、劇場の姿を観ることから、観劇体験が始まっているとも言えます。ただそこに物理的施設が整っていればいいというものではありません。とくに劇場が歴史的建造物としての価値をもつとき、その外観が、劇場周辺地域にもたらす、心理的効果は大なるものがあります。しかし、歴史的であればあるほど、その保守、維持に費用がかかります。このような公的な意味をもつ劇場について、その保守・維持費の助成を願うものです。

8.観光立国促進との連携

海外からの日本への訪問者が増加している中、日本でのライブ・エンタテインメントに触れてもらうことは、意義深いことですが、現在、そうした訪問客への情報提供が十分とはいえません。ロンドン、ニューヨークにおいては、市内の主要劇場の案内と演目が一覧になったリストが、空港、観光案内所、ホテルなど市内各所に置いてあり、多くの外国人客が、ライヴ・エンタテイメントに出かけやすい状況が用意されています。東京においても、同様のシアター・ガイドの発行、多言語対応のチケット販売コールセンター、ホームページの創設など、今は、採算ベースにのらないため民間では対応できないことでも、将来のライブ・エンタテインメントの中心地の一つに東京がなるためには必要なことですので、政府の積極的な取り組みを願います。

9.地方での演劇文化振興

舞台の公演を見ることに関しても、東京の一極集中現象が顕著であり、ぴあ総研による「エンタテインメント白書2007」によれば、年間の総舞台公演回数の65.7%が関東圏で行われており、人口1万人あたりの公演回数は、関東圏が9.5回なのに対し、近畿圏が5.1回、九州・沖縄が2.0回、北陸・中部が1.7回、その他のエリアは、1.2回を下回っています。

演劇文化の享受状況における、このような格差の解消に役立つべく、私どもの加盟劇場も積極的に、東京、大阪、名古屋、福岡の大都市で制作したソフトを、その他の地方でも公演できるよう努力しております。しかし、それらの地方都市においては、背景となる人口が少ないため、短期間、それもほとんどの場合、各地で1ステージしか行えないことが多く、採算の面ではなかなか成立をしていくのが難しい状況です。このように、民間の力で行う演劇を、公演できる地方は限られている状況に対し、文化振興の観点から、地方自治体自らが主催者となって、演劇公演を行う取り組みの増大が望まれます。また、演劇公演の企画には、長期間の準備が必要ですから、単年度ごとの予算でなく、複数年度にわたる予算作成ができるようになることを望んでおります。

10.地域に密着した歴史ある催しの保護

私どもの劇場がこれまで上演してきた作品のリストを見ると、芸事の世界、古くからの芸能・民芸の伝承者、民謡の創始者などを描いたものが数多くあります。かかる上演は、演劇的な充実とともに、そのような文化の告知、顕彰にも、貢献してきました。しかし、そのようなものが劇場でしか、見られないという事態が、年々、進行しており、芸能の多様性の衰退につながっております。そこで、京都の子供による地蔵盆や新潟のやや子舞など、地域に密着した歴史ある催しの保護に、地方自治体がさらに力を入れてくださるようお願いをいたします。

 
 
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